「ただいまぁ~」
家の鍵を開けると、トコトコと走る音が聞こえる。
空が生まれてから、玄関のチャイムを鳴らさずに自分で鍵を開けるようになった。
寝ている空を起こさないように。
起こしちゃったときの直って、本気で怖いしな。
「おかえり、パッパッパ~」
「おう、ただいま!」
「パパ、帰ってきたね。おかえりなさい」
「遅くなってごめんな」
化粧をしていることに気づく俺は、まだ相当直に惚れているんだろう。
「化粧してるの珍しいな」
「そうかな?今日は、さっきまでサッカーの体験があって、説明受けてたんだ」
「そっかそっか。お疲れ」
俺は手を洗い、顔を洗いながら、自分の心の中にあるドロドロっとしたものに気付く。
これか。
直がずっと感じていたもの。
俺は教師で、生徒と近づかないわけにはいかない。
だから、直はずっとちっちゃな嫉妬を抱えている。
今、わかった気がした。


