ひとりきりの体育教官室で夕焼け色に染まった空を見る。
この場所から見る空は、遥か上にあるはずの空がとても近く感じるんだ。
手が届きそうな。
俺にも過去がある。
俺が過去に好きになった女性が今どうしているかって、考えたことがないわけじゃないけど、嵐の母親に関しては申し訳ないが、思い出すこともなかったのが正直なところだ。
俺にとっては、昔付き合った人、という存在であっても、彼女にとっては今も忘れられない存在であるのかもしれない。
俺のいい部分しか思い出さないとしたら、どんどん美化されて・・・・・・きっと今の俺を見たら失望するんじゃないか。
男らしいイメージの俺のままなんだろうけど、今の俺って、超親バカデレデレパパだし。
でもさ。
忘れないでいてくれるってありがたいよな。
俺は、デスクに貼られたいくつもの卒業生からの写真や手紙に目をうつす。
卒業して、新しい生活が始まっても俺のことを大事だと思ってくれる人がいる。
何年も前に別れたのに、まだ俺のことを思い出してくれる人がいる。
そう思うと、今目の前にいる俺の生徒達にも、もっともっと真剣に向き合いたいと思う。
もしかしたら、彼らの未来を変えるかもしれない存在なんだ。
俺の一言で、よくも悪くも、彼らの人生が変わってしまう。
責任のある仕事。
これ以上のやりがいってないよな。
嵐のおかげで、教師になった当時の気持ちを思い出すこともできた。
そして、過去に俺を愛してくれた女性、俺が愛した女性のこと、ちゃんと大事に心の中に置いておこうと思った。


