「忘れてないよ。お前のその目、よく似てる。そのちょっと気の強いところも母さんに似てるんじゃないか。お前が、俺に会いに来てくれて良かったよ」
付き合った中では一番短い人だったかもしれない。
でも、忘れてはいなかった。
俺は、手に持っていた書類を置いて、嵐に一歩近付いた。
瞬きもせず俺を見つめていた嵐は、なんだよ、と少し体をよける。
「母さんは、俺を父親に似ているといつも言う。俺のだめなところが父親にそっくりだと。新垣先生と結婚したかったんだろうな。どうしてこんな人と結婚したんだろうって口癖のように言ってるよ」
両親が不仲なのも辛い。
でも、母親が父親を悪く言う家庭もまた、辛いものがある。
「そうか。そりゃ、俺を恨むよ。でも、お母さんの本心かどうかわからないよ。しっかりして欲しいって意味で言ってるだけかもしれないぞ。お母さんに、伝言伝えてくれる?」
一瞬嬉しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
まだ16歳。
かわいい顔をしている。
俺は“いい息子さんだな”という伝言を託したが、嵐は、自分でそんなこと言えるかよ!と笑った。
「お前なら、サッカー部でも活躍できる。自分の脚力を生かして、やりたいことをやれ」
足の速さは、どのスポーツにも生かせる。
俺は、出て行く嵐の背中に向かって、そう言った。
ポケットに手を突っ込んだ背中を見つめながら想像する。
今、ちょっとニヤって笑ったんじゃないかなって。


