「入学式であんたを見て、母さんはすぐにわかったよ。それくらい、今でも忘れてないんだよ」

鋭い目つきの中にある幼さと、わざと強がる口調。

俺に何ができるだろう。

中川嵐は、化ける。

俺のとこに乗り込んでくるこの根性も、目をそらさない強さも、あの脚力も・・・・・・


「陸上部、入らないか」

はぁ?と首をかしげた嵐。

さっきまでの怒りをどこにぶつけていいのか迷っているような表情で、俺を見る。


「ごめん。俺は、教師になっていろんな生徒と向き合ってきた。必要なのは、時間なんだよ。いきなりわかり合えることなんてできない。話して、一緒に何かを頑張って、そこで初めてお互いのことがわかる」


いろんな先生がいると思うけど、俺の場合、じっくりゆっくりタイプだな。

自信はある。

時間をかければ大丈夫だって。



直だってそうだった。

救いたいと思ってから、随分時間はかかった。



「俺、サッカー入るから」

ぶっきらぼうにそう言った嵐は、部屋を出て行こうとした。


「おい、待て。他に俺に言いたいことは?」

「母さんのこと、忘れてただろ?」


睨みつける目から、俺への恨みとか憎しみは感じなかった。

16歳の少年が精いっぱい強がっている風に感じた。