「お母さんも、そんな状態は望んでないだろうにな」
「まぁ、そりゃそうだろうけど。別に離婚したけりゃすればいい」
「喧嘩ばかりしてるなら、そう思うのもわかるけど」
「でも、問題はどっちについてくかってこと。実際に選べって言われたら、地獄だよ。選ぶなんてできないから、そっちで決めてって思う」
ここが嵐の優しさなんだ。
どっちを選んでも、どちらかを傷つける。
それがわかってるから選べない。
「話変わるけど、俺……あの子のこと好きかもしれない」
あの子とは、同意なしにキスしてしまった年下の子のことだろう。
ちょっと照れたような嵐の横顔を見ていると
胸がキュンとするような
変な感じがした。
「あれから会ってる?」
「会ってない。会いにくい。それに、ちゃんと好きになったとしても、あんなことした俺を好きにはなってくれないと思う」
「それはわからないけど、誠意はちゃんと伝わるんじゃないか?」
「変に意識してるだけなのかな、俺。よくわからない。好きになるってなんなのか、よくわからないのもある。キスしたいって思ったのは事実だけど、それが好きだからなのか、興味本位からなのか、多分次もまた悩むと思う」
女の子の方がそういうことに関しては、成長が早かったりするから、高校生でこういう相談をしてくる男子は少なくない。
告白されたけど付き合っていいかわからない、とか、性欲と恋の違いがわからないとか。
「焦らなくていいんじゃない?ゆっくり、お互いを知っていけば。まずは、会ってみないとな。でも、それも相手が高校生になるの待ってからでもいいかもしれない」
「高校生になったら、絶対彼氏できるよ」
「自信ないんだ、嵐」
ちょととからかうようにそう言った俺に、口をとがらせて怒る嵐。
「あるわけねぇだろ。先生みたいにモテないし」
「俺?」
「噂は聞いてるからな」
「はは、昔の話だって」
俺は知ってる。
嵐のことを好きな子は、いる。
陸上部の練習をこっそり見てる子の視線にまだ気づいていないようだ。


