「1年何組?」

「2組です」

伸びた前髪の間から見える瞳は、まだあどけなかった。

「覚えとくよ」

「担任にチクるんですか」

「だから~俺、口軽くないから」

「怪しいですね」

「俺は、君の体育も担当してないし、関係ないから話しやすいだろ。君の親に会うこともないし、君の成績も知らない」

「確かに、関係ないただの先生ですね」

前髪をかきあげて、笑った。

「はは、そうそう。俺、ただの人」

「じゃあ、またね」


かばんを大きく振りながら、廊下を歩いていく背中を見つめた。


学校しか居場所のない子もいる。
学校がつらい子もいる。

いろんな子がいるけど、学校はいつでもちゃんと待ってくれている。


俺は教師で、大人だけど「先生」とか「大人」ってひとくくりにされたくなくて。

それはきっと生徒たちも同じ。

「高校生」とか「若者」とかそんな風に語られたくないだろう。


大人は信じられないけど、新垣先生は信じられる。

そんな言葉をもらった時は、泣きそうになる。

俺きっかけで、大人を信じられるようになったり、大人にもいろいろいるってことを知ってくれたら嬉しい。




朝の校舎は、気持ちを整理するのにいい。


さっきのあの子は、また俺に会いに来てくれるだろうか。