-大切な人-



先生のことを好きな生徒がいることは、わかっていた。

先生は年齢を重ねてもかっこいいし、何より魅力的な人だから。


空が生まれて空を育てていると、とにかく自分の時間がなくて、
先生のことを考える時間が減った。

パパとしての先生のことは考えるけど、教師してる先生のことは、普段は考える隙間がない。


でも、漠然とわかってたというか。
先生に憧れる子はいるし、本気で好きな子もいるんだろうな、と。

だけど、長谷川先生への気持ちのようなものはなくて。

子供ができたからなのかな。

生徒たちへの気持ちが、変わってきている。
かわいいな、頑張ってほしいなって、親心に近い。


先生が話してくれた原田さんは、私は名前を聞くのも初めてだったし、先生も特に印象に残る出来事もなかったと言っていた。

部活を頑張る体育の得意な生徒、いつも元気だけど大人っぽい子だなって。

だから、相談に来てくれた時は驚いたと。


でも、本人にいきなり相談に行く原田さん、かっこいい。
そして、まっすぐな子。


わかりすぎて。
胸の奥が苦しくなる。


わかるんだ。
あの感じ。

残り少なくなっていく高校生活。

好きだって大きな声で言えない相手。

誰にも応援してもらえないから、気持ちを抑えてるのに会えば想いは膨らんでいく。

あきらめようと思えば思うほど、気になるんだもん。



私が、遅刻ギリギリに坂道を走ったあの朝に感じた気持ちと、
原田さんが塾の帰りに先生を見つけた時の気持ちは、似てるんだろうな。



抑えてた気持ちが、あふれ出す感覚。


このままでいいの?
後悔しちゃうんじゃない?
好きなら好きでいい!!

そんな気持ちで、先生に会いに来たんだろうな。


私の場合、先生は独身だった。

あの時、もし既婚者だったら、私はどうしたのかな。
何も言わず、そっと卒業したのかな。

 
でも、覚えていてほしいって思ったと思うんだ。

だから、原田さんのように先生に迷惑かけない形で、気持ちを伝えていたかもしれない。


原田さんは、来年の3月には卒業する。

それまでの高校生活を、堂々と恋して過ごすのって最高じゃない。

先生を本気で好きになる子の気持ちは、わかる。
先生の魅力、原田さんもいっぱい知ってる。
絶対、同じようなところにキュンキュンしてるんだよ。

私も見たいな。
廊下の向こうから歩いてくる先生。
出席簿で、頭ポンってしてくれて。
廊下走るな~って言ってもらいたい。