原田は、先週、塾の帰りに学校の校舎が見える道を通った。

その時に、体育教官室にいる俺を見つけた。

遠くて、小さいのに、すぐに俺だとわかったって。


暗闇の中に光る体育教官室をずっと見てて、涙が溢れたんだと。


ずっと抑えてた気持ちが溢れて、ちゃんと好きでいたいって思ったんだと。

そう言ってくれた。


それを聞いた直は、ライバルとかじゃなく、原田を昔の自分と重ねていた。



「直は、優しいなぁ」

「だって、原田さんいい子だもん」

「だな」

「原田さんにとって、先生の存在が力になってるんだよ」



直から、教えられることがある。
いつも。

俺は、たくさんの生徒を相手にしていて、毎日毎日たくさんの言葉を交わしている。

俺が覚えていないようなささいな会話が、誰かの支えになることもあるんだよって、直は言ってくれた。

どうして俺を好きになってくれたんだろうって思うことが今までもあったけど、直にそう言われると納得できたりする。


「先生のおはようだけで、元気になれる子もいるんだから」

直は、俺の背中をそっと撫でた。

ここから見えるたくさんの家の灯りには、それぞれの家庭があり、その中にストーリーがある。

俺は、その灯りひとつひとつが生徒達のように見えた。


「女の子だけじゃないよ。恋とかだけじゃなくね。好きな先生がいるって、ものすごく幸せなことなんだよ」


俺は直より年上で、教師で。

でも、いつも直に教えられ、支えられ、力をもらってる。


直はすごいなぁ。

この愛を、俺だけじゃなく、空にも注いでるんだからな。

そりゃ、疲れちゃうよ。

周りのみんなのこと考える直だから、大事な存在が増えるとその分、疲れちゃうよな。



そんな直を、俺がしっかり包みたい。

俺は、そっと直の肩を抱いた。


【先生SIDE END】