俺は、引き出しの奥にある懐かしいものを手に取った。
『スキ』と書かれたマウスの中のボール。
言えない気持ちをここに書いた直だったけど、言わない分、ものすごく伝わってたんだよ。
好きって気持ち。
一緒に教官室を片付けた日、楽しくて楽しくて……
これ以上ふたりでいたらダメだって思った。
もうあの時は、好きになってたのかな、俺。
生徒に恋するなんて、最低な教師だけど、
神様……ごめんなさい。
直だけは特別だから許してくださいって。
何度、謝ったかな。
たまたま、運命の相手が生徒だった。
それだけなんだ。
俺は、ボールを引き出しの奥にしまい、懐かしい写真を見る。
毎年毎年、教え子は増えて、写真も増える。
直は言うんだ。
どの子にとっても、高校時代の新垣先生はたったひとりなんだからねって。
直がいた頃の生徒達のことは特別だけど、直が卒業してからも、みんなとても大事。
改めて生徒の人生の1ページに自分がいるんだってことを思うようになった。
「新垣先生、最近お弁当復活したんですか」
同僚の先生に声をかけられ、我に返る。
「あ、はい」
体調を崩していた直は、少しずつ元気になっている。
笑顔が増えた。
今週は、お弁当を作ってくれている。
無理はしてほしくないけど、作りたいのって言ってくれたから。
荒れていた空も、今はサッカーに夢中になっている。
右足を骨折したことで、左のキックが強くなった、とコーチに言われて喜んでいた。
コーチ……
うん、お世話になった恩人なんだけどな。
ちょっと、心配でもある存在。


