直とのファーストキスを思い出したせいで、
いろんな思い出が俺の胸に押し寄せてきた。



いつから、どうやって、
俺は直に恋をしたんだったかな。


好きにならないって強く思っていたのに、
どうして好きになったんだろう。



直に声をかけられた日はすごく嬉しかったんだよ。

それって、いつからだったんだろう。



当時の俺は若くて独身だったから、好きになってくれる子も何人かいた。

好きとまではいかなくても、俺のファンだとか言ってくれる子は多くて、手紙をもらったり、写真を撮って、と言われたり。

直は、そんなわかりやすいことはしなかった。

昼休みに女子生徒に囲まれている俺に、近付いてくることはなかった。



でも、どうしてだか、俺の中に矢沢直は大きく存在していて。

好きとか、ファンだとか言われてないのに……

俺を想ってくれているような気がしていた。



誰もいない時は、

『せんせ~、元気?』って声をかけてくれたりするのに、
いっぱい人がいるとその場からスッと消えてしまうような。

そんな子だった。


授業中は、真剣に俺を見つめていた。

俺はその視線に気付いて、なかなか見ることができなかった。

それは、自分でわかってたから。


きっと、そうだ。

無意識だったのか、意識的だったのかわからないが、
俺は、直に惹かれてしまうことをわかっていたんだろう。



直は、他の高校生と比べて大人びて見えた。

何もかもわかっているような、そんな。

寂しい目をした直を見ていると、何か諦めにも似たものを感じた。

いくら願っても、いくら頑張ってもこの世には変えられないものがあるんだ、ってことを直は知っている、そんな目をしていた。

それは、俺と似ていて。

先生、相談乗ってよ~って気軽に話してくる生徒とは違う雰囲気で。



どうしても、俺が助けなきゃいけないって変な使命感が生まれていた。