カラフルな色のお花が並んでいる道を進むと入り口があった。
「初、ベトナム料理屋だな」
「もういいにおいするね」
手を繋ぎ、店内に入ると昼なのに少し暗くて、オレンジ色の照明にキュンとする。
私の好きな夕日色。
「先生、フォー食べたい」
「お、いいなぁ」
「私、鶏肉にする!」
「じゃあ、俺牛肉だな」
違うメニューを頼んで、味見させてくれるところは、初めてのデートから同じ。
あの体育教官室を掃除したお礼のデート。
「生春巻きもうまそう」
「このサンドイッチみたいなのも美味しそう」
「それも頼もう。今日はお祝いだな。空の前祝いと俺と直の新しいスタート」
最初に運ばれた生春巻きをペロっと食べちゃう先生。
サルサソースをつけすぎたって辛い顔をする先生をスマホで撮影。
「撮ったな」
「かわいいもん」
フォーにはレモンを絞るといいと説明があり、先生が絞ってくれた。
さっぱりした酸味が美味しくて、久しぶりに食欲が湧いてくる。
これが本来の私。
よく食べて、よく笑って、先生が好きすぎる。
それが私。
「まだ食べたことない食べ物ってあるんだよね」
「ん?確かにそうだな。この歳で、ベトナム料理の美味しさを知ったんだもんな」
「いろんな世界の料理、食べたいし作りたいな~!空にも食べさせたい」
「こうしてたまにはふたりで美味しいもの食べて、知らない味を体験するってのもいいな」
初めて食べたパパイヤサラダ。
初めて飲んだベトナムコーヒー。
簡単に旅行には行けないけど、こうして先生とベトナム料理を食べていると旅行に来たような気持ちになれる。
「現実から離れるって実は大事なことなんだな」
先生は、オレンジ色のランプを見つめていた。
体育教官室から夕陽を見つめていた先生と重なる。
「俺はさ、学校でちょっと疲れたとしても、家に帰ればそこは癒しなんだよ。でも、直にとっては家がすべてで、家の中が戦場みたいになることもあって。逃げる場所もなくて」
戦場だった。
うん、そうだったな。
「助けを求めるはずの俺が、学校での疲れを直に癒してもらってて、俺は癒せてなかった。空が、あんな風になる前から直は大変だった。楽しそうに育児してるように見えても、楽しいばかりじゃない。直は、教師である俺が好きだから、教師である俺を守る為に、無理してたんだなって。考えればわかることなのに……俺は、ダメダメだったよ」
そんなことないよ、と言おうとしたら先生に手を握られた。
「直、焦っちゃダメだよ。焦らないでいいから。人間って変われないからさ。無理しないように、自分を大事にする時間を取るようにしていこう」
溢れそうになる涙を、先生が拭いてくれる。
「泣きたい時は泣く。逃げたい時は逃げる。そして、誰かに頼ってもいい」
「うん」
「ただし、一番に頼るのは俺ってことだけはわかってる?」
「うん」
「直は、100%母親になってしまってたんだよ。今から、直に戻る為に行きたい場所があるんだけど」
ニヤリと笑った先生。
「事情は教頭に話してあるから、大丈夫だと思うんだけど……時間的にバレずに入れるか……」
もしかして……??


