運転席に座り、いつもの動きでエンジンをかける先生。
こうして、じっくり先生の動きを見ることすら忘れていた。
空のママ、になっていた。
それはものすごく幸せなことなんだけど、自分の人生の主人公が空になっていて。
先生に恋してる自分はどこかへ置いてけぼりになってたんだなって。
気付く。
最近ようやく。
病院に行き、話をして、
カチカチにかたまってた体と心がほぐれていくのがわかる。
「温度、大丈夫?」
先生はいつも、暑くない?寒くない?って聞いてくれた。
初めて先生の車に乗ったあの日。
ハンドルを握る先生を見て、ハンドルになりたいってそんなことを願った。
でも、今の私……
ものすごい場所にいるんだよね。
先生の奥さん、なんだよね。
先生との赤ちゃん産んじゃって、先生と暮らしてる。
あの片思いしていた頃の直に言ったら、びっくりして倒れちゃうよ。
こんな未来が来るなんて。
思ってなかったね。
「最近の学食は、直がいた頃よりメニューが増えててな」
ナビに住所をセットしながら先生が話す。
「フォーとか、日替わりランチで出たことがあって、よくわからないままみんな頼んでた。はは」
「フォーなんて出るの?すごいね」
「男子はみんな足りなくてな。俺も食べたりなくてカレーパン買った」
食堂にいる先生は、想像できる。
いろんな生徒と話しながら、笑ってて、どこに座っても歓迎される。
空が生まれてからは毎日お弁当の日も減ってしまって、申し訳ないなと思ったけど、そういうのも、今は考えない方がいいんだよね。
「直は、食堂で俺のこといつも見てたからなぁ」
「だって大きいもん」
「ははは。確かにそうだけど」
「近くに来ないかなっていつも思ってたけど、男子に呼ばれてそっちに座っちゃうんだよね」
いつでも、戻れる。
あの頃に。
それなのに、最近戻ってなかったな。
先生、私……
先生が好きだよ。
大好きだよ。


