エレベーターに乗る。
降りていくエレベーター。
色が変わる数字を見つめていた。
先生が言った。
「あれ、思い出さない?あの……別れた日の」
「先生も?」
「俺にとっては、最大の失恋だったから」
途中の階で人が乗ってきたので、私たちは奥に立ち、顔を見合わせた。
手を握ってくれた。
あの日、あの夜、
もう先生と別れると決めたのは自分なのに、このエレベーターが下に着くのが怖くてたまらなかった。
私にとっては、のぼりのエレベーターは別れを告げると決めて、泣かないように、最後は楽しく、と必死で笑顔を作っていた。
先生にとっては下りのエレベーターの思い出だよね。
それぞれの思い出がある。
このタイミングで先生がその話をしてくれたのも愛。
病院でいろんな感情が出て、泣いちゃった私を思いやってくれてる。
「さてと、ベトナム料理、いくか」
車に乗り、病院での話はしないまま、あの懐かしい別れの日の話をした。


