「直は、完璧な母親になろうと頑張りすぎてるのかもしれないな。俺、教師だけど、完璧なんて求めてないよ。矢沢直だって、プールサボってたしな」


私は完璧な母親になろうとしていた。
だって、とてもとても大事だから。

理想のお母さんになりたかった。
でもそれが自分を追い詰めていたのかもしれない。

「明日、一緒に心療内科行ってみない?その後、ふたりでデートしよう」

「心療内科?気になってはいたけど、空いるし」

「実はさ、俺の親父に頼んである。明日は直とふたりで過ごしたいから」


私は先生の肩に頭を乗せた。

「嬉しい!!ふたりきり?」

「だってさぁ、直、空のことばっかりで、俺スネちゃうよ?」


甘えるようにかわいい顔をした先生。
なんだか、懐かしい。

「俺のことも愛してよ」

「愛してるよ」

「そう?じゃあ、キスでその気持ちを表わしてみて」



え?キス?

キスでって、これも昔あったような。


そっとキスをする。


「その程度なの?俺への愛」

「もう、先生のエッチ」


私がもう一度キスをすると、そのままベランダでしゃがみこんで激しくキスをして……



「スイッチ入っちゃったぁ。どうしてくれる?」



先生は、私の憧れの人で、初恋の人で。
いつもいつも私を包み込んでくれる。

でも、私にも守るべき子供ができて、バランスが崩れちゃったんだ。
どうしていいのかわからないことだらけで、
迷子になってた。

でも、いろんな人が助けてくれて。
力をくれて。


気付いたんだ。
私はずっと先生の胸に包み込んでもらってたんだって。
それなのに、何、ひとりになった気分になってたんだろう。

先生はいつも私を見つめてくれていたのに。

こうして、甘えれば良かったんだ。
この力強い腕に。
この大好きな胸に顔を埋めて泣いても良かったんだ。


涙にキスをする先生。
月明りの下、先生に何度も愛してるって言えた。
愛してるよ。
世界にたったひとりの人。

「直、俺以外の男に頼る時は、俺に言ってからにしろ」

「ごめんね」

「もうそんなことがないように、俺がそばで見逃さないようにする」

「先生、大好き」

「お前は、変わらないな……いつも我慢してばっかりで」



私たちを見守る月もきっと思ってる。
変わらないねって。



私は、直。
空のママ、じゃない。

ちゃんとした名前があるんだ。


ちゃんと、自分に戻る時間が必要なんだね。


先生のキスと、優しい瞳と、力強い腕が、愛しすぎて。
幸せだなって心から思える。



大丈夫、大丈夫。
私、元気になれる。