「パスタ食べにいこう!昔よく行った駅前の店」

私の頭をゆっくりと何度も撫でてくれる先生。
見上げると、大好きな優しい笑顔があった。

そうだ。
ここが私の居場所なんだ。

この人に甘えていいんだ。
だって、大好きな大好きな先生なんだから。

おかしいよね。
先生にも空にも気を遣うなんて。

他人であるコーチに頼ってしまうなんて……


「先生、私は全然成長してないね」

「はは、ひとりで抱え込んで悩むところは確かに変わってないけどな」


ほっぺをむぎゅっと挟んだ先生が、私のおでこに唇とそっと当てた。



伝わるよ、先生の愛。
ちゃんと大事にしてくれてるのに。

ひとりぼっちなんかじゃないのに。
どうして……あんな気持ちになるんだろう。

今はもう大丈夫。


「空、パスタ食べにいこう」

笑顔で空を呼ぶことができた。


「いく~!たらこ食べる~」

「じゃあ、今日は歩いていくか」



3人で、手を繋いで歩いた。

ギプスで歩きにくい空をふたりで持ち上げたりしながら歩いた。



誰にもバレないように、私は涙を拭った。


目の前に広がる夜の闇の中に光る黄色い月。

いつも、いつも私たちを見守ってくれていた月。


お月様、相変わらずな私だけど……

どう見えてるかな。




「空、コーチとパパ、どっちがかっこいい?」

先生は私の顔をちらりと見ながらそう言った。


「う~ん。どっちもかっこいい」

「え~!パパじゃないの?」

「パパよりサッカーうまいもん」

「え~!それ言われたらどうしようもないけど」


そんな会話を聞きながら、私は改めて私は先生が好きだと感じていた。


「空、パパって走るのすっごい早いんだよ~!パパ、泳ぐのもうまいんだよ」

私がそう言うと、空は

「じゃあ、パパの勝ち~」

と先生の二の腕にぶら下がった。



「ここは嫉妬してる場合じゃないからな。気にするな」

先生は、耳元でそう言って、空を肩車した。


「大好きだよ」


先生の大きな背中に向かってそう呟いた。


先生が好き。
そんなことも忘れてた。

余裕がなかった。



私は、ずっと前から
新垣和人が好き。

ずっとずっと追いかけてたその背中。



肩車された空が振り向いて、ママ~と言った。




何かが変わった。
きっと大丈夫。