「ただいま~!」

いつもより早く帰ってきてくれた先生は、空を抱き上げた。

「ママと仲良くしてたかぁ?」

「うん、今日ね、コーチが来てくれたの。すっごい楽しかった」


空がそう話してくれたことで私はほっとしていた。

高田コーチのことを先生は気にしている。
それがわかるから、私には聞きづらいはず。


「直、体調どう?ごめんな」

空がボールで遊び始めたのを見て、先生は耳元でそう言った。


「ごめんね。もう、どうしようもなくなって」

「いや、俺が帰れなかったせいだから。高田コーチから電話もらったよ」


家から帰った後、また電話をしてくれていたようだ。

空の様子と、私の追いつめられた気持ちを話してくれていた。


「直、俺……わかってなかったな。そこまで限界だったなんて」


首をかしげながら、そう言った先生の表情が、なんだか懐かしく感じた。

きゅん。

高校時代、よくしていた仕草。

最近は、そんな先生のかっこいい仕草を見る余裕もなかっただけなのかもしれない。


「おもらししたベッドの上で飛び跳ねてたんだろ。泣きわめいて、逃げて、怒ってたんだろ…… 俺、そこまでひどいと思ってなかった」


言えなかった。
先生に、そこまで言えなかった。

ふたりの子供なのに、先生に心配かけちゃだめって思って、平気なふりをしていた。


だって、先生にはたくさんの生徒がいて。
みんな大変で。

先生は日々悩んでて……



「直っ」

力強い腕が私の体を包み込んだ。


「言えなくさせてたのは俺だな」

「先生……」