「あの子、誰が産んだんですか?」


高田コーチは、真顔になり、私を見つめた。

窓から入ってくる風が、コーチの髪を揺らす。



「私です」


「世界中探しても、他にいないんです。だから、安心してください。大丈夫、大丈夫だから」


「うっぐ……うぐぐ」


隣の部屋から聞こえる空のはしゃぐ声を聞きながら、私は号泣していた。


「嫌いになるわけないじゃないですか。怒ってもいいんです。気を遣うことはない。自分の子供なんだから。怖がる相手じゃない。あの子は、あなたの息子なんだから」



私の涙が落ち着くのを待って、高田コーチは言った。


「いつでもいいです。助けが必要な時、連絡ください。頼ってください」


「ありがとうございます。こんなに心強いことはないです」


「空のパパからも、お願いしますと言われましたし、ここはもう深いことは考えずいきましょう。他のママや誰かから聞かれたら、空のパパと友達だということにでもしちゃいましょうか。ははは」


高田コーチの笑い声を聞いて、隣の部屋の空が真似をして笑った。



「新垣さん、いつでも話は聞きますし、空にも会いに来ます。これは、ご主人に了承を得てないんですが、電話で話せない時はメールください」


「高田コーチ……」



隣の部屋から、笑顔の空が入ってきた。


「空、何か食べる?」


「うん、アイス食べる!」



空が、私に笑顔を向けた。

ハッとした空は、笑顔を消したけど、久しぶりに笑顔で話せたことが嬉しい。



「はい、アイス」


「ありがと」


目を合わさずにそう言った空に、コーチはこちょこちょの刑をする。


「こらあ、空!なんだ、その態度!かわいいママにそんな態度取るなら、コーチがもらっちゃうぞ」


冗談だとわかっていても、ちょっとドキっとしてしまうこと言ってくれた。

空は、ゲラゲラ笑いながら、ソファへ逃げる。

コーチは追いかけて、空が謝るまでそれを続けた。



「ママ、ごめんね」

と言いに来た空を、私はそっと抱きしめた。




まだ、終わったわけじゃない。

でも、少し、トンネルの出口が見えた気がした。