「空は、今まで物分かりが良すぎたんだと思います。素直で、わがままも言わず、空気も読める子です。ちょっと早い反抗期、というか、自分を爆発させる時期なのかなと」


「私は今まで恵まれていたんだなって気付きました。イヤイヤ期で悩んでる友達もいる中、空は男の子の中では特別育てやすい子だったと思います。だから……私が空の変化についていけてないんですね。我が子なのに……今はどう付き合っていいのか、空の顔色を伺ってしまう。ダメな母親です」


私の言葉を遮るように、コーチが言った。


「それは違う!!ダメじゃない。絶対にダメじゃない。もっと自信もってください」


「コーチ……」


「お母さんって大変だと思うんですよお。だって、いきなりお腹から赤ちゃんが出てきて、自分の時間がゼロになるんです。でも、かわいいし大事だし、無理して頑張っちゃう。でも、やっぱりね、人間ですから。ゆっくりお茶を飲みたい時もあれば、ひとりで静かに過ごしたい時もある。それを、毎日ちょっとずつ我慢して我慢して、その積み重ねで疲れちゃう時もあります」


溢れた涙は、テーブルにポタポタと落ちた。

驚いた高田コーチはティッシュを渡してくれた。



「大好きなんです、空が……」

「わかります。大好きなのは知ってるし、大事に大事に育ててきたのも、見ていればわかります。だけど、ずっと頑張ってたらお母さんが倒れちゃいますから、。たまにはサボっていいんですって」


ニコっと笑った高田コーチが、なんだか空の笑顔と重なって見えた。



「空は、お母さんが大好きなんですよ。大好きで大好きで、本当は優しくしたいのに、できない。自分でも自分が止められないのかもしれない」


「ケガをする前の空と、今の空が別人に思える時があるんです」


眠る前、ほっぺとほっぺくっつけようって言って、ママ大好きだよって言ってくれた空。

ママのほっぺは気持ちいいねって、スリスリしながら眠ったね。



今は、抱きしめようとすると離れて、イライラしたように私を突き放して。

でも、寂しくて、泣きながら眠ることもある。




戻れるのかな。

あの関係に。