ふたりきりの重く暗い空間に風が吹き込んだようだった。


空は、おもちゃのサッカーボールを高田コーチに蹴って見せた。


笑顔の空を見ていると涙が溢れてくる。

かわいい、空。

あんな笑顔、最近見たことなかった。

私がこの子から笑顔を奪ってしまったのかな。


「空、家でできる練習もたくさんあるからな」

「うん!」

「ケガのおかげで、前よりもうまくなった子もいるんだよ。空、毎日ヘディングの練習してみような」


高田コーチが投げたボールを空は頭で受けた。


「ヘディング30回、やってみて」

そういうと、コーチは私に視線をうつして、小さく頷いた。

空は嬉しそうに、声を出しながらヘディングをしている。



「じゃあ、ちょっとママと話してくるから」

「コーチ、まだ帰らないで」

「帰らないよ!」



コーチとリビングへと行き、お茶を出した。


「新垣さん、落ち着きましたか」

私の気持ちを落ち着かせるように、穏やかな話し方だった。

「はい。助けてもらいました。本当に……限界だった……」

「頑張らないでいいですよ。十分、頑張ってますから。今は、どう手を抜くか、どう自分が楽になるかを考えてください」


頑張らなくていい。

その言葉は、私にとって砂漠の中のオアシスの水のようにしみ込んでくる。



頑張らなくていいんだ。

私……