その夜、直とゆっくり話そうと思ったが、
空と一緒に眠ってしまったので、俺はひとりでベランダに出た。


珍しく缶ビールを開け、遠くに見えるビルの灯りを見つめていた。



教師をしている中で、いろんなことが日々起こって、悩んで、考えて、失敗もして。

そんな日々をずっとそばで直は見守っていてくれた。

多くの生徒を見ていると、もうこれ以上抱えきれない、という時がある。

あの子も心配、この子も心配。
あの子は今、落ち着いてるかな、そういえばあれから大丈夫か、と。


俺にとっては多くの中のひとりであっても、生徒にとっては俺は数人の教師の中のひとりである。

生徒たち、としてまとめて見るのではなく、生徒ひとりひとりをしっかり見つめたいと思う。

そんな話をしたことがあった。


直は、言ってくれた。


だから、先生に心を開く生徒が多いんだよって。

その言葉が、どれほど俺に力をくれたかわからない。



大変でも、容量オーバーになりそうでも、気になる生徒には、その場で声をかける。

明日に伸ばさない、と決めた。




なのにさ、俺は、家庭の中ではどうだっただろう。

後回しにしたことがなかったか?

直がしっかり母親してくれてるからって、空の子育てに全力を注いでいなかったこともあったと思う。



サッカーの試合だって、本当は俺に見て欲しかったんだ。

生徒も大事、家族も大事。

どちらかを犠牲にすることなんてできないのに、俺は直に我慢ばかりさせていた。


俺の想いを知っているだけに、言えなかったんだと思う。


もっと、空を見て。

もっと、家族の時間をって言いたいのに言えなかった。


それは、直は誰よりも俺を知っていて、教師をしている俺を愛してくれてるから。


そこに甘えちゃいけなかった。




生徒に対して、明日に持ち越さないと思っているのに、家族に対しては……

明日話そう、とか明日考えよう、とか、そんなのおかしいよな。



毎日一緒にいて、当たり前のように愛し愛されているという自信からそうなってしまったのだろうか。