俺は、ブランコを押しながら、まだほんのり明るく見える空を眺めた。
直は、いつも自分より相手のことを考える。
いつも我慢する。
つらいのに、つらいと言えずに無理して笑顔を作る。
それが直なんだよな。
「空、早く治るといいな」
「パパもっと押して」
「おう。早く幼稚園も行きたいよな」
「サッカーもうしない」
「どうしたんだよ、空。サッカー嫌い」
俺は、空の小さな背中を見ながら、涙が溢れそうになった。
そうか、
空は今の生きている中で大好きなものを嫌いと言ってしまうんだ。
ママも大好き。
サッカーも大好き。
決して嫌いになることのないママとサッカー。
嫌いと言える存在が、ママなんだよ。
それは、直からの愛情を信じているからこそできること。
父親の俺では代わりになれない母の愛なんだろうな……
「な、大嫌いなママにおみやげでも買う?」
「おみやげ?」
「ママの大嫌いなプリンでも買おうか」
「ママ嫌い、プリンも嫌い」
「はははは。パパも早く空に嫌いって言われるように頑張らなきゃな」
空の小さな手を握り、コンビニへ向かう。
小さな小さなこの手で、俺の手を握ってくれる。
まだまだ小さい空だけど、すげー大きい夢をかなえるんだろうな。
そんな気がする。
今までおりこうさんだった空の、初めての反抗。
それをしばらく見守ることが俺達にできる唯一のことなのかな。