声がした方を見ると、うちの制服を来た女子が三人、つり革に掴まって立っていた。
声の主は、優先席の近くに立っていた、髪の短い活発そうな女の子だった。
彼女は優先席に座っている若者に、小声で話しかけている。
僕は優先席の目の前に立っていたから、その声を聞くことができた。
「あの。あそこで、杖ついたおばあちゃんがいるんですよ。だから変わってあげた方がいいと思うんですよ」
彼女はこっそりと、ドア付近を指差す。
そこには、七十代くらいの腰の曲がった女性がいた。杖をついて、なんとか電車の揺れに耐えている。
僕はかなり驚いた。
今まで、高齢者に席を譲る人は見たことがあったけど、優先席に座る若者に声をかける人は見たことがなかった。
優先席に座っていた男性は、少しの間眉を寄せて彼女を見ていたけど、やがて静かに席を立った。
すかさず女の子が、女性のもとへ行く。
とんとんと肩を叩き、空いた席を指差す。
女性は「あらぁ」と申し訳なさそうに笑った。