『忘れてるよ、俺は』




君は、でもそう言ったんだ。



でも、君の言葉に自分の中で疑問が湧いて出る。





“忘れてるよ”


なら、どうして、君はそんな顔をするのか。


どうして、君は“別れ”を切り出したのか。





ねぇ、なんで?




でも、崇人の痛いくらいの視線に言葉が詰まる。





『けど。
 俺は忘れてても、知佳は違う。
 知佳はまだ由樹のことが好きなんだよ。
 それなのに一緒にいても意味ないっていうかさ…』



そう君は言うけど。


君が言ったんだよ?




“お互いに好きな気持ちがあってもいい。
 その代わり、苦しい時は頼れ。
 泣きたい時は呼べ”


君は奈々を、私は由樹君を想ってるままでいい、そういう契約内容だった。



なのに。


そんな君が、何故、そんなことを言うのか…。






『それに。
 俺、好きな奴できたから』



あぁ…そっか。


静かに、君が言い放った言葉を聞いて納得する。





『…そっか…なるほど!
 私はいらないってことか、そうだよね、今度はその人がいるんだもんね?』


左手をグーにして、開いた右手の平にぶつけ、わたしはそう言った。




それが、君の本音。



うん、だから、私は君のその言葉を受け取らなきゃいけない。





『知佳』


泣きたい訳じゃない。

でも、君の私の呼ぶ声が優しすぎて。





『…ごめん』


君がそう謝るから。


一気に、涙が溢れだしそうになった。




“別れるのに、泣いちゃダメだ。”



そう頭の中で何度も言い聞かして、私は勢いよく、その場を走り去った。