2番目の唇


そんな取りとめも無いことを考えながら3階分の階段を上がり、開いたドアはフロアの真ん中あたり。

右手に進むと、正面にあるガラスのドアに書かれた白文字が目に入った。

「“営業企画”。ここね」


コンコン。


光の漏れるガラスのドアを軽くノックする。

返事は無かったけれど、ここには違いないし、呼ばれたのだから入っても構わないだろう。


「失礼します。システムです」

名乗りつつドアを開いた私は、壁際に取り付けられた棚の前で振り返った人物を見るなりフリーズしてしまった。


そこにいたのは、少し日焼けした肌の背の高い男性。

茶色がかった髪は記憶にあるよりもやや短くなっていたけれど、こっちを見ている驚いたような顔にはしっかりと覚えがある。


「翔子?!」


更に、私を呼ぶこの声にも。



間違いない。


彼は、私の忘れられない2番目のキスの相手だ。