2番目の唇


履く機会の無くなった高いヒール靴の代わりに踵の低い靴が並ぶようになると、服にゆるみが出て来たのは嬉しいおまけだった。

けれど、運動不足すぎた生活を反省しながらも風呂上がりのビールを楽しみにしている私は、やっぱりオヤジ化しているのかもしれない。


歩きやすい機能的な靴に比べて華奢でヒールも値段も高い靴達は、今や文字通りの箱入りとなり、クローゼットにしまってある。

いつか見た靴好き姉妹の映画を思い出し、その恋のストーリーに憧れながらも、私はそんな靴達を箱から出してみることさえできずに日々を過ごしていた。


それは階段のせい、というよりは、私生活の変化によるものだろうと思う。

今の私の毎日は、ほとんどを仕事が占めている。

出世コースに乗ったキャリアウーマンというわけでもないのだが、気づいたら、こんな毎日が普通になってしまった。


もうしばらく前から、恋人も、デートする相手もいない。

最後に付き合っていた人とは、付き合った時と同じようになんとなく別れてしまった。

はっきりした理由があったわけではないと思うのだけれど、お互いになんだか違うな、と思ったんだと思う。