それにしても、だ。
鈍い。
どうして"彼"というこの人間は
こうも鈍感なのだろう。
あたしはそれがもどかしくなって、言った。
「……ねえ、今からあんたの家に寄っていい?」
何を考えているのかわからない彼には
「行きたい」と正直になんて言えないし
こうでもしないと目的が果たせない。
この一言を言うのにどれだけの勇気を
あたしは必要としただろうか。
だけど
彼の家に行けるだけで嬉しくなってしまったあたしは
このとき彼の小さな変化に気づいていなかった。
あたしのこの一言が
あんな結果を招くなんて……。
後悔だけが残る瞬間は
刻一刻と近づいていた。



