「玲音?」



囁くような声だった。
風の音でかき消されるくらいの、小さな声だった。


3メートルほど先の男の人が、足を止めた。


「玲音?」


髪は黒くて短い。
ストライプのスーツにブリーフケース。
どこから見ても、真面目なビジネスマンだけど。


「え?すみれちゃん、知り合い?」


川崎さんが、不思議そうに声をかける。

男の人はゆっくりと振り返った。



玲音だ。


間違いない。



ずるくて優しくて、そして急にいなくなっちゃう、玲音だ。