病室の扉が閉まりきり、琴平さんは一人、病室の前で胸元に拳を添えていた。




「……待ってる、か」






切ない声が、静かな病院に響く。








「俺も、待ってるよ」









琴平さんはポツリと、誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いた。



もちろん病室の中にいる私には、その声は聞こえていない。


だけど……。






「あれ……?」


今、誰かの声がしたような……。




気のせい、かな?







神様は、やっぱり意地悪で。

はっきりと、私に声を届けてはくれなかった。




届けてくれたのは―――声の面影だけだった。