ギュッと、私を抱きしめる凪雲くんの力が強まった。
陽介とは違う温もり。
比べてしまうのは、陽介の温もりをよく感じていたからなのかな。
「泣いてもいいんだよ」
「凪雲くん…っ」
「泣いたって、何も変わらない。
海が前を向いて頑張ってきたことも、恋を思い出にできなかったことも」
凪雲くんの優しい声を聞くと、涙が目尻に溜まる。
そして、ひと粒の涙が、頬を伝った。
泣いても、今まで思い出にしようとしてきた自分を否定することにはならない。
それと同じように、泣いても、初恋を思い出にできなかったことに変わりはない。
「うぅっ……」
涙が、溢れ落ちた。
その涙は、まるで陽介への“スキ”の結晶のよう。
まるで、陽介と別れたあのクリスマスイブに見た、雪のように儚く淡かった。
凪雲くんは、声をあげずに泣く私を、強く優しく抱きしめ続けた。
優しいその温もりは、私の心にひとつの光を灯した。



