「いい加減、忘れなきゃ」
私はポツリとそう呟いて、フェンスに寄りかかる。
カシャンとフェンスは音をたて、吹く風が私の髪をさらう。
初めて落ちた恋も
陽介と過ごした時間も
陽介と笑いあった思い出も
陽介の温もりも
全部全部、忘れなきゃ。
『この恋、賞味期限切れ』のヒロインも、そう思ったのかな。
陽介と別れて、初めてその本を借りて、全部読んでみた。
全て読み終えたとき、私は泣いていた。
ヒロインの心情と、私の心情が、不思議なくらい合っていたから。
「『初恋は、叶わないもの。叶っても、儚いもの』……確かあの本には、そう書いてあったっけ」
『この恋、賞味期限切れ』に出てきた、ヒロインに恋をする男の子、文化祭で凪雲くんが演じた人がヒロインに言った言葉。



