「陽介!……っ」
やっと出た声で発した言葉は、それだけだった。
ただ大好きな人の名前を、言っただけ。
私の声は駅によく響いて、陽介と笹道さんにも聞こえたようだった。
陽介は周りを見渡し、…………私を見つけた。
「海!」
私を見て、目を丸くする陽介。
そして陽介は、手の甲で唇を隠した。
まるで、キスをしたことを知られたくないように。
陽介の頬が赤い。
陽介、キスされて嫌じゃなかったのかもしれない。
もしかしたら本当は、笹道さんのことが好きだったのかもしれない。
私は、怖くなって、震える足で走り出した。
陽介と笹道さんがいる逆方向へと。



