「じゃあ,ばいばい」
帰ろうとする.
「ちょっと待って」
と遊くんは真剣な顔で私を止めた.
「ひとつ,お願いしてもいいかな」
私の心の中には
遊くんが「別れよう」という想像でいっぱいだった.
「うん」
自分でもびっくりするほどか細い声.
「キスしてもいい?」
え,耳を疑った.
六か月付き合ったんだしするのは普通なのかもしれない.
だけど,自分に自信なんてない私にとっては信じがたいセリフだった.
前を向くと,照れて顔を合わせない遊くん.
あ,聞き間違えじゃないんだ.
と驚いていると
「紗南は首縦か横に振って」
私は小さくしっかり縦に振った.
「ここじゃ人多いし,歩くか.」
と手を差し出す.
ギュと手を絡める.
世に言う恋人つなぎで.
遊くんの手は震えていた.
緊張してるのかなとすごく愛おしかった.

