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俺のこころは、二つの矛盾の間で叫んでいる。



「ごめんね、泣いたりして。」


「いいよ、落ち着いたみたいだし。
あんな状態で家帰っても親がビビるでしょ。」


駅前の階段で、顔にタオルをあててくぐもった声で彼女は言った。
ここにいるのは、通行人の目も痛いが、店に入ってジロジロ見られるよりは一瞬の視線のほうが痛くないと思ったからだ。


「茜は知ってたんだ?」


「知ってたっていうか、今日の朝知った。
やけにハイテンションな浩介から。
…俺は由宇が知ってるとは思わなかった。」


「あたしも今日の朝知ったから。
…後輩なの。知ってる子なの。」


「そっか。」


鼻をすすりながら告げる彼女のほうは見ずに、簡単に答える。
こう答える以外に上手い返事があるのなら、是非教えてほしい。

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