ごめん、好きすぎて無理。








『すみませーん!』




部屋の出入り口から、意気揚々とした感じで声をかけられ、全員が一斉にそちらに視線を向ける。









『あ、夜勤でこちらのお部屋を担当します、高木と……』






そこまで言ったところで、看護師の高木さんの言葉が止まる。




多分俺が土下座をしていて、その横に紗奈がいて…のこの図に驚いたんだと思う。








『……え……』




看護師の高木さんは瞬きもせずに、その場に立っていて。







『……あ、あの…なんか変なタイミングで…すみません……』



看護師の高木さんが慌ててそう言い、紗奈のお父さんが俺の腕を掴んで立たせた。






『……こちらこそお恥ずかしい所をお見せしてしまって申し訳ないです』




紗奈のお父さんがそう言って頭を下げる、でも紗奈のお父さんの手は俺の腕を掴んだままで。




看護師の高木さんが部屋を離れたところで、紗奈のお父さんは俺の腕を離した。









『……申し訳ないが、君と紗奈のことを許すわけにはいかない。
 それに娘と海君の結納だってあるじゃないか…。

 結納をする、すなわちそこまでの想いと覚悟があったからそういう話になったんじゃないのか……紗奈』







『………それは…………』





紗奈はお父さんの言葉に、言い返さず、そして唇をきつく結ぶ。



その姿を見て、お父さんの顔が俺の方に向けられるー…







『陸君、君が何度頭を下げても娘との結婚も出産も許さない…。

 それに海君と紗奈が結婚を意識した関係だと知りながらも……どうして裏切る真似をしたんだ……。


 結局君は裏切る、紗奈に罪の意識を背負わせるだけじゃないか……』









『……ダメなんです………。
 弟の婚約者だと知ってます、分かってます…。
 でも、それでも俺は紗奈に今度は産んでもらいたいんです!

 あの時は……紗奈が好きで、それでも紗奈を離してしまった……。
 ずっと後悔してました……。

 後悔をするくらいなら……今度は一緒にいて二人でお腹の子の親になりたいんです!』