『………お腹の子の父親は…………』
そこまで言って、でも紗奈は話すのをやめる。
『紗奈』
俺がもう一度、紗奈の名を呼ぶと、紗奈は俺の顔を見て、
『………父親は、陸………』
そう、小さな声で言ったー…
『……ありがとう、紗奈』
俺がそう言うと、紗奈は俺の腕を掴む。
『……陸……ごめんなさい…』
心細い声で、それでも俺の腕を掴む、その手に力を込めている紗奈ー…
そのアンバランスな感じに、俺は一度天井を見つめ、そして膝を床につけた。
立ち膝になると、紗奈の手が俺の腕から離れる。
『…………陸…?』
頭上から紗奈の声が振りかかる。
でも俺は両手を床につけ、頭を深々と下げた。
『……陸…何、してるの……服が汚れちゃう……』
紗奈は慌てて、俺の背中に手をつき、俺の真横に座り込む。
『紗奈のお父さん、お母さん、そして海…。
突然のことに驚かさせてしまってすみませんでした。
でも、俺に紗奈をください』

