『……お前、自分が何を言ってるのか……
誰の前でそんなことを言ってるのか…分かってるのか……?』
紗奈はお父さんのその言葉に、海に視線を向ける。
『………海君、ごめんなさい……。
私、ずっとあなたじゃなくて、あなたを通して陸を見てたの。
陸を感じてたの……ごめんなさい……』
紗奈はそう言って、海に頭を深々と下げる。
でも海は一気に起こった出来事に、紗奈の言葉に、冷静な判断が出来る状態じゃなかったんだと思うー…
『………紗奈、俺達、結婚、すんだよな…?』
『……海君』
『俺達、結婚すんだよな?』
海は紗奈の言葉を遮り、そして強い瞳で紗奈を見つめ、そう言う。
『紗奈、言ってくれたじゃん…?
俺を幸せにしてくれるって…。
二人で幸せになろう…そう、言ってくれたじゃん?』
でも、紗奈は俯いて、それでも海は言葉を続けるー…
『紗奈、お腹の子、おろそう……』
海のその言葉に、紗奈は勢いよく顔を上げた。
『紗奈、お前は海君と結婚をする、そう決めたんだろう…?
だったら……海君の言うとおり…』
『あなた!』
紗奈のお父さんの言葉を紗奈のお母さんが遮った。
遮られたお父さん、そして聞いていた海もハッとした顔に変わる。
目の前には、自分のお腹を両手で押さえ、首を横に振り続ける紗奈の姿ー…
『………どうして……?
どうして……陸もいなくなって、この子までいなくなったら……
私、生きていけない……
私の生きる希望、何もなくなっちゃうよ……』
紗奈のお父さんも海も何も言えない…。

