『…やめて……!』
紗奈が全力でお父さんの腕を引っ張り、お父さんの手が俺の襟もとから離れた。
『………紗奈、なんで……なんでなんだ!』
俺の襟もとから離れた手で、紗奈のお父さんは紗奈の両肩を掴み、そして揺らす。
『………お前には、結婚を考えている人がいるじゃないか……』
どんなに揺らされても、それでも紗奈は真剣な顔でお父さんの顔を見つめる。
『………陸のこと、忘れた日なんてなかった!
陸のこと……陸を失っても、それでもずっと好きだったからよ……』
紗奈のその叫びにも近い声で発せられた言葉に、紗奈のお父さんは紗奈を揺するのをやめた。
『…紗奈、この男はやめろって言っただろ?
こいつはお前を妊娠させて、それでもお前を捨てた、最低な男なんだぞ!?
どこがいい…?
こんな男のどこがいいんだ!?』
『……お父さんなんかに何が分かるのよ…?
お父さんもお母さんも、何も知らない、何も分かってなかったじゃない!?
私がずっと苦しんでたこと……。
彼はそんな私をありのままの私を受け止めてくれた人なの……。
お父さんでもお母さんでもなく、彼なのよ!?
私が……私らしくいれる、そんな場所を彼が作ってくれたの……。
だから……彼は私の大事な、大切な心の拠り所だったの……。
そんな彼にそんな失礼なことしないで、失礼なことも言わないで!』
紗奈の目からは涙が溢れて、
紗奈のお父さんの目からも涙が溢れていたー…

