女医がいなくなると同時に、病室には何とも言えない微妙な空気が流れる。




最初の沈黙を破ったのは、紗奈のお父さんー…






『紗奈…お腹の子の父親は、えっと…海君、なんだよな…?』




紗奈のお父さんは俺に似ている海を見つめ、そして紗奈に視線を戻し、そう問いかける。






海の子ども…


海が紗奈に触れたこと、

紗奈が海に触れられたこと、


二人は恋人なんだから、そんなことがあってもおかしくないのに。



でも、なんだか苦しいー…







『………紗奈………………』




紗奈の名を呼んだ海、その海の目から一粒の涙が流れた…。







『………紗奈、俺……』




海の声は震えていて。


海の目からは次から次へと涙が溢れて。






そんなに嬉しいか。



そんなに父親になること、愛する人との間に産まれてくる子どもの存在がそんなに嬉しいか…。






俺は黙って、海を見つめる。














『……紗奈、お腹の子の父親…………俺じゃ……ない、よな……。
 だって俺たちは……。
 紗奈……どういうこと……』













え………?




海の言葉に、俺の思考回路がプツリと切れる。










海の子じゃない……?