『……陸、陸と紗奈はこの間の飲みが初めまして、だったよな…。
なのに、今の紗奈、俺と陸を間違えた、それってどういうこと?』
海はあえてなのか、俺の顔を見ずに、俯きながらそう言うから、海の表情が掴めない。
声からして、怒ってるというのは伝わってはくる、でも…どこからどんな風に説明すればいいのか分からないー…
ましてや紗奈のお父さんとお母さんもいる、この場所で海になんて語ればいいのか…
『海君、私から説明させて?』
紗奈は勢いよく上体を起こすと、海の腕を掴んでそう言った。
『紗奈、兄貴とどういう関係?
なんで兄貴の名前、しかも呼び捨てで呼んだの?』
海のこんなにも低い声を聞くのは、きっと今までで初めてのことだ。
それくらい、今の状況に怒りを感じている、ということー…
『海君、あのね…お兄さんとは……』
『はーい、失礼します!』
紗奈が言いかけた、正にその時、病室の出入り口から白衣を着た、中年の女性が入ってきた。
『お取り込み中申し訳ないのですが、紗奈さん、倒れられたばかりですので…大きい声でお話しするのはお控えになってくださいね』
多分、女医さん、女医さんはそう言うなり、紗奈のお父さん、お母さん、海、そして俺を順番に見つめる。
『紗奈さんのお父さん』
女医はそう言って、紗奈のお父さんを指さす。
『紗奈さんのお母さん』
今度はお母さんを指さす。
指を差された二人は互いに、“はい”とだけ答えた。
『で、えっと……。
まぁ私は女医なので詳しいことは聞きませんが、うん、紗奈さん、妊娠されていて、今、とっても大事な時期だから、精神的にストレスを与えないようにお願いしますね、皆さん?』
女医のその言葉に、紗奈以外の全員の顔が呆気にとられた様子で。
女医はクスクスと笑った。

