海は本当に俺の話をしたくて、大地に卒アルなんかを持ってくるように言ったんだろうか…
海は本当は何か知って…
俺はそこまで思ったところで、首を横に振り、自分の考えを否定する。
海は何も知らない。
海は何も知らないんだ。
海と俺は違う高校で、その感動秘話とかに出てくる女が紗奈だってことは知らない。
知らないんだ、海は何も。
何度自分にそう言い聞かせただろう…。
何度目か、そう言い聞かせたところで、俺は自分の部屋を後にした。
静かに階段を降りていく。
階下に近づけば近づくほど、海、紗奈、そして大地の笑い声が響いてくる。
ほら、みんな、笑ってるんだ。
俺も何もなかった顔で、みんなの元に戻ればいい。
『陸、おせーよ』
リビングに顔を出した俺に海が気付き、海はそう言った。
『わりぃ……』
俺はそう言い、大地の隣、空いてる席に座った。
『陸もきたところで乾杯はじめっか』
大地のその言葉に、全員がグラスを持つ。
並々に注がれた苦いビールの独特な匂いが鼻につく。
『…えっと、乾杯は誰やんの?』
『そのまま大地でいいよ』
『じゃ、改めまして俺が乾杯の音頭をとらさせていただきます。
それでは、海、そして笹本さんの幸せを願いまして、乾杯!』
大地の言葉に、全員がグラスをぶつけ合った。
それぞれがビールを一口飲んだところで、ぷは~っと、酒飲みの特有の言葉を口にする。
『海、それから…笹本さん、おめでとう』
大地の言葉に海と紗奈は見つめあって、優しく微笑んだ。
今、目の前にある、この光景こそが現実。
そして、この光景こそが正しい。
俺は自分の目に、その光景を焼き付けるように、見つめた。

