シンデレラに恋のカクテル・マジック

「今頃気づいたの?」

 彼におどけた口調で言われて、菜々の顔に知らず知らず笑みのようなものが浮かぶ。

「じゃあ、着替えておいで」
「はい」

 菜々は永輝の膝から下りて、休憩室へ向かった。着てきたスーツに着替えてバーに戻ると、永輝は右手に車のキーを持っていた。

「本当に今日は閉店でいいんですか?」
「うん。俺の勝手で悪いけど」

 永輝がバーのドアを開けてくれたので、菜々は先に外に出た。八月になったばかりの今は夜でも蒸し暑い。永輝がドアに鍵をかけて、菜々を駐車場へと案内した。一台の黒のSUVに近づき、助手席のドアを開けてくれる。

「ありがとうございます」

 菜々が座席に座り、永輝が助手席のドアを閉めて運転席に回り乗り込んだ。彼がエンジンをかけて、エアコンの吹き出し口から冷風が流れ出し、車内を冷やし始める。

「家はどこ?」

 永輝がシートベルトを締めながら言った。菜々が黙っているので、彼が助手席を見る。

「どうしたの?」

 優しく顔を覗き込まれて、菜々はおずおずと言う。

「あの、久しぶりに両親の話をしたら、実家に戻りたくなって……」
「じゃあ、実家に送ろうか?」