一臣の手回しの良さに驚く間もなく、菜々はメイク・アップ・アーティストの手によって艶やかな肌が作られ、肌なじみの良いアイカラーやチークでメイクが施され、スタイリストに髪をふんわりとカールさせられて華やかなダウンスタイルにセットされた。

「いかがでしょう?」

 スタイリストがケープを外して菜々に言った。

「わぁ……」

 菜々はほうっとため息をついた。鏡に映っているのは、睡眠不足で肌荒れの目立つ庶民的な菜々ではなく、洗練された印象の大人の女性だ。

「す、すごくステキです……」

 自分とは思えず、菜々が鏡の中の女性をまじまじと見ていると、一臣が目元を緩めて言った。

「とてもキレイですよ」
「ありがとうございます。あのお会計は……」

 言いかけた菜々の言葉を、一臣が遮る。

「ここもうちの系列です。菜々さんは何も気にしないでください。いいですね?」

 念を押すように言われて、菜々はお金のことばかり気にしていると思われたのではないかと恥ずかしくなってきた。何しろ祖父と一臣は、菜々の暮らしてきたものとは違う世界で生きているのだ。

「これなら社長も満足されるでしょう」