ベティが言いかけたときだった。

「ヒメリ!」


 二人ともはっと顔を見上げると、そこにはカバンを大事そうに抱きしめてるリュウセイの姿。


 大分走ったのか、吐く息は白くて頬も赤く染まっている。

はあはあ、と肩で息をして必死な瞳でベティを見つめていた。


「ベティ、もういいだろう…!?」

 哀しそうな声のリュウセイをみているだけで、なぜだか胸が苦しくなる。

足早に駆け寄ると、あたしを通り越してベティの肩をトンと押し返す。


「もう…リゲルは関係ないよ」


 ふと視線を落としたリュウセイの背中は、少しだけ震えていた。

あたしの腕をすっと掴むと、くるりと向きを変えたリュウセイ。


 現状が読み込めていないけど、ここまできたらあたしだって全て知りたい。


「ちょっと、リュ…!」

 引きとめようと声を荒げようとした。

でも、そのまえにリュウセイの肩を勢いよくつかんだのはベティだった。


「いいかげんにしろよ、リュウセイ!」


 ぐるんとまたまわされたあたしの目の前では、リュウセイの銀髪が冷たい風にそよいでいた。

広くなってきたその肩の向こうでは、今にも泣きそうなベティの強い瞳。


 何も知らないあたしは、ただそれを見守っているしか出来なくて……。




「リゲルが……嫁に飛ばされるんだぞ!?」


 ベティのその言葉に、リュウセイの肩がビクンと跳ねた。