午後の授業は、珍しく頭に入ってこなかった。

黒板の文字も線が重なっているだけのようにしか見えなくて、ノートに板書することすら忘れてしまっていた。


「橘さん、大丈夫?」

 目の前に座る白河さんが覗き込んできた。

その心配そうな瞳に、あたしもようやく我に返る。


「え、あ…ごめん。ちょっとぼーっとしちゃって…」


 なんとか笑って誤魔化すと、もう一度昼休みの出来事を思い出していた。


 ベティが口にした名前。

リュウセイたちの本当の名前は珍しいから、その独特の響きを聞いてすぐわかった。



「リゲルも、いわゆる幼馴染さ」


 寂しげに笑うベティにもなにかあるのだろう。

下唇をきゅっと結ぶと、ベティはあたしに向き直る。


「あんたとは正反対な女の子だよ。元気で明るくて、かなりお転婆だし…リゲルが笑うとみんな笑うんだ」


 楽しそうにベティは微笑んでいて、そのときあたしはピンときた。



 ……ああ、ベティはその子に恋してるんだ。


切れ長の魅惑の瞳も、すべてはリゲルに向けられている。


 こんなにも愛しそうに話すベティは、やっぱりリュウセイの友達なのだ。



「リュウセイは……」