「好きだ」
その言葉が私を椎名さんの傍に縛りつける。私をまっすぐ見つめる瞳に、ついに捕まった。
「椎名さん……私……」
多分もうあなたの占める割合が大きくなっています。
椎名さんの顔がゆっくり近づいてくる。その意味は言われなくても分かる。このまま椎名さんの唇を受け入れてしまったら、私はもう引き返せない。
それでもいいの? まだ修一さんと何も話ができていない……。
「だめ!」
私の口からは拒む言葉が出た。両腕で椎名さんの肩を押し返した。
「ごめん……なさい……」
私には修一さんがいる。裏切ることはしちゃいけない。
涙が溢れた。椎名さんの気持ちが嬉しくて、でもそれを受け入れられないのが申し訳ない。
「謝んなよ」
椎名さんの手は私の肩を解放した。
「ごめん……悪いのは俺」
私の頭に椎名さんの大きな手が載った。いつかのように軽く頭を撫でられた。
「勝手に好きでいるだけだから。困らせてごめんね」
「もう……だめです……」
これ以上椎名さんに惹かれてはだめだから。もう私にこんなことはしないで……。
「もし俺が先に……」
椎名さんは言いかけて口を閉じた。
「…………」
「…………」
その先は聞けなかった。
電車がホームに入ってきた。いつの間にか電車を待つ人が増え私たちに視線を向けていた。
「もう無理矢理奪ったりはしない。本当に」
電車のドアが開き人が動き始めると、椎名さんは長椅子に置いた紙袋を手に取った。
「それじゃあ、気をつけて……」
そう言い残し、私の顔を見ずに電車に乗って行ってしまった。
もしも修一さんより先に椎名さんを好きになっていたら。
少しでもタイミングが違えば椎名さんとのキスに罪悪感など抱かなかったかもしれないのに。



