椎名さんは私のすぐ横に設置された長椅子に紙袋を置くと、ふぅっと溜め息をついた。
「ごめん、夏帆ちゃんの気持ちを無視した」
その声からは後悔が滲み出ていた。椎名さんの顔は辛そうだ。
「俺っていつも夏帆ちゃんの嫌なことばかりするね」
違う。本当は嫌じゃなかった。
椎名さんのキスに心を奪われて、修一さんへの罪悪感でいっぱいになってしまう。それが嫌だったのだ。
そう、私はキスをされたことは嫌じゃなかった。
「今日の夏帆ちゃんがいつも以上に綺麗で、つい触れたくなった」
「からかわないでください……」
「だから、からかってないよ」
椎名さんは私の肩を掴み強引に体を向かい合わせた。
「夏帆ちゃんが好きだよ」
シンプルな言葉だけど本気なのが伝わった。
「私と椎名さんじゃ似合わないのに……」
「俺はそうは思わない」
「私は修一さんと付き合ってる……」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「あいつに取られる前に強引にでも俺のものにすればよかった」
掴まれた肩に椎名さんの手の力を強く感じた。
「この体も、笑顔も、泣き顔も……俺にだけ見せてほしい……」
視線が逸らせない。引き込まれそうな目力に体が固まる。
「夏帆ちゃんの全部があいつのものだって思うとムカつく……俺を見ろよ。あいつより君のことを大事にするし、君を支えられると思ってる」
そんな言葉は今の私には毒のように心を蝕む。
「私はまだ椎名さんを思い出せないのに……」
「あの頃の俺のことは覚えてなくていいんだ。もう思い出さなくてもいい。今の俺を見て」
椎名さんは意地悪で、言うことも考えていることもよく分からない。でも私のためになる言葉をくれる。



