落ちる恋あれば拾う恋だってある


「すっげー可愛い……」

耳元でそう言うと私の首の後ろにキスをした。

「っ!!」

大きな声が出そうになるのを堪えた。髪をアップにしているため椎名さんからはうなじが丸見えだ。続けて耳にまでキスをされた。混んだ車内では体を動かせずに抵抗できない。頭を振るだけで精一杯だ。それでも椎名さんは遠慮なしにキスの雨を首や耳、髪にまで降らせる。ちゅっという音が私の耳を犯した。

「椎名さん……!」

手すりをぎゅっと握り締め、小さな声で抵抗することしかできない。それをいいことに椎名さんの唇は私の耳に何度も触れた。

嫌だ。やめて。心臓が破裂しそう。

「椎名さん……お願い……」

哀願する声を無視して、周りに人がたくさんいても椎名さんはやめようとしない。

間もなく駅に着くというアナウンスが流れた。電車が止まり目の前のドアが開いた瞬間、私は勢いよくホームへ降りた。

降りたものの、そのままホームに立ち尽くしてしまった。私とすれ違いに電車に乗り込む人に何度もぶつかった。迷惑そうな顔をされてもその場から動けない。

椎名さんと二人になってはいけなかった。優しさに甘えてしまうから。触れられたらドキドキしてしまう。頭の中が椎名さんでいっぱいになる。
嫌だ。だめなんだ。椎名さんを想ってはいけない。私は修一さんと付き合っているのだから。
これ以上近づいたら、もっと椎名さんを意識してしまう。それじゃ浮気だ。絶対に許されない。

「夏帆ちゃん……」

追って降りたのだろう椎名さんが後ろに立っている。電車は発車し、ホームにいるのは私と椎名さんだけになってしまった。

「置いてくなんて酷いじゃん。これ結構重たいんだから」