途中の駅で止まる度に人がどんどん乗ってくる。椎名さんと体が触れ合ってしまうくらいまで混んできた。一歩ずつ体と体が近づく。
窓ガラスに映った椎名さんと目が合った。ガラス越しに私に向かって微笑む。それに微笑み返す余裕なんてない。油断すると今にもその瞳に捕まってしまいそうだ。
突然車内が揺れた。私はバランスを崩して後ろによろけ、椎名さんにぶつかった。
椎名さんは腕を前のドアにつけて体を支えた。その体勢はまるで後ろから私を腕の中に閉じ込めているようで、椎名さんの息づかいが聞こえてきそうなほど近い。私の背中と椎名さんの胸がくっついている。離れようとしても混んだ車内では難しかった。
どうか心臓が早く鼓動していることに気づかれませんように。
「大丈夫?」
突然耳元で問いかけられた。
「は、はい! 大丈夫です……」
ものすごく緊張していることが分かってしまったのだろうか。
電車が揺れても人に押されないことに気がついた。椎名さんが腕に力を入れて私が押し潰されないように突っ張って支えてくれている。その気遣いが嬉しかった。
「椎名さん……」
「ん?」
顔を後ろに向けた。私より頭一つ分背の高い椎名さんと至近距離で目が合い、このまま電車が大きく揺れたら私の頭と椎名さんの顔がぶつかってしまいそうだ。
「どうしたの?」
穏やかに私の次の言葉を待っている。混んだ車内で片手に荷物を持って片腕で体を支えているのに、少しも辛そうな様子を見せない。
「ありがとうございます」
守ってくれて。傍にいてくれて。
「どういたしまして」
私を安心させる優しい顔で笑う。
電車が揺れた瞬間慌てて前を向いた。
「やばいな……」
椎名さんが呟いた。



