落ちる恋あれば拾う恋だってある


要件を言ったからいいと思ってるんだから……。

予めコピー紙に『使用禁止』と印刷したものを持ってきていた。電池を持ってくる間だけ扉に貼っておいたので、剥がして電池を換えようと思った。その時トイレの外から誰かが入ってくる気配がした。

私は慌てて『使用禁止』の貼り紙をしたままのトイレの中に隠れた。トイレのトラブルまで私が直すところを誰かに見られたくなかった。

「……この間の会議でやっと決まったみたい」

「やだな、メンバー変わるとやりづらいんだよね」

「この忙しいときに最悪」

どうやら入ってきたのは二人のようだ。洗面台に化粧ポーチを置く音が聞こえた。

「営業推進部の子に聞いたんだけど横山さんが課長に昇進だって」

「今? どうして急に?」

「やっぱりあの噂本当だったんだよ。副社長に取り入って出世狙ってるって」

「結局さ、横山さんと総務部の地味子ちゃんはどうなったの? 宇佐見さんは?」

「地味子ちゃんが横山さんと付き合ってるってこと」

「じゃあ地味子ちゃんがもし横山さんと結婚したらなんか癪だよね」

「わかるー」

再び怒りが湧いた。二人の前に出ていって怒ってやろうか。
修一さんはみんなが羨ましがるほど完璧な男なんかじゃない。

「宇佐見さんは切り替え早くて、観葉植物のメンテナンスに来てくれてる業者の人いるでしょ。あの人と付き合ってるんだって」

「へえー、宇佐見さんも面食いだね」

二人がトイレから出ていった気配がして深呼吸した。

噂は本人のいないところで勝手に変化して広まってしまう。人から人へ。悪意を含んで。