「そう……。僕は夏帆には家庭に入ってもらいたいけど」
「ごめんさない……それはもう少し考えさせてください……」
「夏帆は僕と別れたいの?」
「違う! ……そうじゃない!」
「だって正社員の僕だけで充分生活していけるよ?」
理解できない言葉に修一さんの顔を見た。
「私……仕事するの好きなので……」
「雑用係が?」
体がピクリと震える。
他の社員に言われるのならまだ我慢できる。でもよりによって恋人に雑用だと言われるとは思っていなかった。今までそう思っていたということか……。
「私……修一さんといるのが辛い……」
この人と付き合ってなかったら悩むこともなかった。悲しい思いもしなかった。卑屈な自分を見つめることもなかった。
『君には笑っていてほしいんだ』
なぜか椎名さんの優しい顔が浮かんだ。
『夏帆ちゃんの不満も悩みも受け止めてくれるから』
ボロボロな私の傍にいてくれたのは、不満も悩みも受け止めてくれたのは、恋人ではなく椎名さんの方だった。
「辛いなんて言わないで……」
修一さんは私の髪にキスをした。
「この件は少し時間をおいて話し合おう。僕は夏帆が大切だから」
繰り返し私を安心させようとする言葉を発しても、一度生まれた不信感はなくなることはなかった。
恋人の腕の中で椎名さんの温かな手の感触を思い出していた。
「今夜は、やっぱり泊っていってよ」
耳元で修一さんが優しく囁いた。
「夏帆とずっと触れ合っていたい」
この言葉の意味を理解した瞬間体が強張る。
修一さんから求められても初めてのことへの不安から先に進められなかった。今夜も体が拒否している。けれど修一さんは今夜こそ恋人らしいことをしたいと思っているのだ。



